田中弥生『スリリングな女たち』

スリリングな女たち

スリリングな女たち

 何かを読んでいるという行為が、気がつくと受動的ではなくなっている。書かれている言葉を咀嚼し消化しつまらない理解に落とし込むのではなく、そこに新しい言葉を持ちこんであらゆる文脈を破綻させ、その破綻さえも跳躍して書きかえる。読むことの楽しみは、ある種の完成型として、そこまでいける。
 つないでいくことで新しい文脈を想像することもできるだろう。書かれたものに厚みがあり、時が流れていくもので、書かれたものが書かれたままのかたちを保ち続ける限りは。
 新しい価値を創造する。作者の意図していないことであろうとも、テクストに書かれていないことであろうとも。批評とは、評論とは、本来そんなものだ。あとはそれが、踏み台にした数々の言葉に恥じないくらいに美しくて面白いものであるべきかどうかだ。どちらかが備わっていれば、そこに芽生えた新たな価値に、生きる資格はあるだろう。