浅田次郎『降霊会の夜』
- 作者: 浅田次郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/03
- メディア: 単行本
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どんな人生を生きてきても、悔いはあるだろう。取り落としたものはきっとある。一回限り、リセットのきかない人生であれば、選べなかった道は無数にあり、得られなかった栄光は幻影として在り続ける。その思いを重ね合わせる夜に、これまで何度も夢想していながら、どうしてもたどり着けなかった夢の果てが降りてくることはあり得ることだ。
すべては言い訳にしかならず、許されてもならない。たまたま思いついたふたつの罪科が、彼の人生のすべてであるわけはない。であれば尺は問題にならず、このかりそめの舞台の貧弱さだけが悔やまれてならない。
すこしだけ、懐かしい小説家の声を聞いた気がした。それだけで、すこしだけうれしくなった。
田中弥生『スリリングな女たち』
- 作者: 田中弥生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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つないでいくことで新しい文脈を想像することもできるだろう。書かれたものに厚みがあり、時が流れていくもので、書かれたものが書かれたままのかたちを保ち続ける限りは。
新しい価値を創造する。作者の意図していないことであろうとも、テクストに書かれていないことであろうとも。批評とは、評論とは、本来そんなものだ。あとはそれが、踏み台にした数々の言葉に恥じないくらいに美しくて面白いものであるべきかどうかだ。どちらかが備わっていれば、そこに芽生えた新たな価値に、生きる資格はあるだろう。
松家仁之『火山のふもとで』
- 作者: 松家仁之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/09/28
- メディア: 単行本
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玄関となる入り口はひとつしかない。入ったときには何もわからない。あかりをつけて家の中に上がりこんでみると、部屋は無数にある。あたたかい部屋を通り、小さな部屋を経て、暗い部屋を訪れ、やがて寝室にたどり着く。そこで眠れば、すべては一夜の夢になる。覚めてみれば、これまで通りすぎていたことごとの、なんとはかない。
あまりにも端正に、あまりにも居心地良く、あまりにも美しく、この家はある。そのたたずまいの、堂々として静かな様子に、反感など抱きようもない。隅々まで行き届いた手入れが、どうしようもなくリラックスした心地を連れてくる。
それでもいまの時代、このぬくもりに満ちた新しい、それでいてどこか見覚えのある家が、売れるとは思えない。それを、ひとつの事実として受け止めねばならない。
中村航『星に願いを、月に祈りを』
- 作者: 中村航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/03/28
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物語に指向性がなく、ものごとに方向性がなく、時の流れに変化がない。それらは決まりきった道をなぞりながら、決まっていた通りのゴールにたどり着く。意志はなく、魂を落着させてやるだけの器もない。
かりそめの救いがあったとしても、これではあまりにも報われない。これではあまりにも、彼らが哀れではないか。
中原昌也『悲惨すぎる家なき子の死』
- 作者: 中原昌也
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/04/12
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中上健次『地の果て至上の時』
- 作者: 中上健次
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/08/11
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べっとりと、宿命のように。
最後には失うしかない。行きつ戻りつ、決まりきった結末を迎えることさえできないのならば、誰かが死ぬしかない。そうするほかに、何もかもを脱ぎ捨てることはできない。
終わりはいつだってそうなる。血が流れ、土地は焼ける。
小前亮『蒼き狼の血脈』
- 作者: 小前亮
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/06/08
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