柴崎友香『わたしがいなかった街で』

わたしがいなかった街で

わたしがいなかった街で

 すべては連続する流れのなかにある。因果をたどれば果てはなく、そこにあるという状態に満足できなれければ、永遠と無限の網にとらわれ続けるほかなくなる。そうなってしまえば、すべては逆転する。ひっくりかえる。「いま、ここ」こそが実であるはずなのに、限りなくそれが希薄になっていく。
 時間のなかで、自分が希釈されていく。
 もしもの世界に生きることはできない。それは連綿と続く時の流れである。わたしが不在である世界がぽっかりと口をあけている。わたしを忘却すればすべての地ならしは終わり、そこに焦土が開ける。求めてはならない。意味を。
 ただ、時の流れだ。それは何者でもない。