多和田葉子『雪の練習生』

雪の練習生

雪の練習生

 想像力は説得力に直結する。あまりにも豊かな想像力はすでに質量を備え、そこに現実の芽生えを予感させる。皮肉ではなく、そうあればいいと思う視点の在りかが、意識しないうちのレンズとなって照らし出す、ある意味では残酷な輪郭もあるだろう。
 その想像力の果てに何があり得るのか。その世界はいったいの何の鏡像となっているのか。踏みだされたものは、あまりにも過去にとらわれたものでありすぎて、たしかな物語が息づいているにも関わらず、退屈さを退ける力はない。