山田詠美『ジェントルマン』

ジェントルマン

ジェントルマン

 価値を認めないからこそうまく片づけるできる、侮っているからこそ完璧に済ませることができる、それが他人から見ればスマートに映ることはあるだろう。演じているのではどれだけうまくとも限界はある、露見は破綻に直結する。そこでも動じぬのであれば器の問題ではない。はじめから価値観は壊れている。
 すべて幻想は現実に芽吹く。
 少年少女では測れない。男であれば気付かない。女であればわかってしまう。はざまにいるからこそ幻想を生きる。生きられてしまう。幸福ではあったのだろう。理解を超越したものを置くことによってみずからの位置を特定する。動かぬ写真の、神は便利だ。
 鮮やかな筆致、おそるべき吸引力。美しい小説の行き詰まる破滅は、血の色をしている。