古井由吉×佐伯一麦『言葉の兆し』

往復書簡 言葉の兆し

往復書簡 言葉の兆し

 すべてが奪われ、流れ去った後には、当然言葉も残らない。兆してくる場所はどこか。焼けた大地と濡れた大地、言葉にとって罪深いのはどちらか。それでも、悲しいくらいに共通しているのは、命が消え言葉が奪われたそこで、それでも生活だけはむごたらしく続くという事実だ。
 ゆえに、言葉は芽吹くだろう。続いているものがあるならば、沈黙はいつか破られる。取り戻すものでもなく作り出すものでもなく与えられるものでもない。それは自然と、気がつけばそこにある。
 そうでなければならない。