円城塔『道化師の蝶』

道化師の蝶

道化師の蝶

 親切な小説ではないが読み解きとつじつま合わせに意味はないので、しない。
 構築するのではなく、解体する。小説を解き、言葉をほぐす。要素には還元されない。関係性のもとで連結された建築は、決して。
 小説、あるいは文学などすでに不可能であるというひとつの結論がある。先人たちに語りつくされ戦うべきものを失い、すでに世界観を共有しえないこの社会では決して文学は力を持ち得ないという聡明な理解がある。
 それに抗うことを文学は成しうるか。成しうるとしよう。どんな方法があるか。文学には無理だというのなら、よし、一度その文学というものから解放されてみようじゃないか。
 かくして新しい文学を構築するために歴史が積みあげた言葉は解体された。壊してしまえばいいというものでは決してない。乱暴に扱えば言葉は壊れる。壊さず崩さず丁寧に厳密にいっそ偏執的なまでに部品を取り外していく。外科医のような手技だ。つめたく静かで、正確で精緻。文体はしらじらしい顔をしている。
 かまえを解き、造りをほぐす。構造は意義を失い、ばらばらになった剥き出しの言葉が現れる。それが円城の仕事だといえばわかりやすいが、いかがわしい。まして理系作家だからこそのアプローチだといえば通りがよさそうなだけますますあやしい。
 今までの言葉を解体しすべての構造を解きほぐした後、広大な更地に仕立て上げたその場所に、円城はどんな塔を建てるつもりなのか。破壊のあとの創造を待つ。