辻村深月『鍵のない夢を見る』

鍵のない夢を見る

鍵のない夢を見る

 どうしようなく行き詰ったときに見える景色に、バリエーションはそう多くない。上手く捉え、残酷なくらいに丁寧に描き出す。そこに棲まう狂気はあるだろう。陰湿な部屋にこもる真理もあるのかもしれない。けれどもそれを、知りたいとは思わない。
 それは暗く、それは痛く、それは悲しい。たとえばそれが真実であったとして、それに対抗しうる提案のない連なりに、いったい誰が、何が、救われるのだろう。
 書かれていくことに迫力はあっても、書かれていく手際に技と才気はあっても、ただ書かれているものに、あまりに価値がない。