堀江敏幸『燃焼のための習作』

燃焼のための習作

燃焼のための習作

 途切れない会話の、続いていくエピソードの、重層的な連なりが、偶然に意味するところはあるだろう。何もかもが何もかもの端緒となるとき、すべての言葉は円環を成して、たしかな輪郭を備えた全体となる。
 ぬるくまとわりつく湿気は、駘蕩の表れか、不穏の名残か。外で響く雷鳴に、つられてもっていかれるものはない。体があって、食事がある。すべては足りている。満ちるところまでは至らない。そこに、偶然のひらめきを待つ。