松浦理英子『奇貨』

奇貨

奇貨

 一般化を許さない強靭な人間の、外れてしまったところを執拗に書いていく。どうしても敷衍してしまいたくなるところを、直前でせき止める筆のゆるぎない落ち着きが、かえっておそろしい。すべてについて語ることを病的に拒否し、ひとりについて書くことを徹底する。
 それだけが、逆説的に、結論を語ることが許される方法なのかもしれない。